日本人にとって草花は、四季を映し出す大切な存在。梅雨の紫陽花もまた、春の桜同様、季節の移ろいを感じさせてくれる日本の代表的な花の一つです。
今回は、そんな日本人にとってなじみ深い紫陽花について、その歴史や見頃、お勧めの観光スポットなどをご紹介します。
ぜひ、参考にしてみてください。
1. 紫陽花ってどんな花?
紫陽花は、日本生まれの落葉低木の一つです。花は、土壌の酸性度によって青や紫、ピンク、白などに色付きます。
元々は「ガクアジサイ」という日本固有の植物でしたが、18世紀に西洋に渡り、「東洋のバラ」として珍重されるようになりました。その後、20世紀になると現地の品種改良によって「セイヨウアジサイ」という品種が誕生し、世界で流通するようになりました。
しかし、原産の日本はといえば、紫陽花の人気が出始めたのは20世紀後半に入ってから。第二次世界大戦後、寺社などに植えられていた紫陽花が観光資源として注目を浴び、地域集客の一翼を担う存在となっていきました。
また、国内でも品種改良や生産技術の向上が次々と進められ、色や形のバリエーションが増加。品種数は450以上にもなり、今では全国の花屋で、鉢植えや切り花などさまざまにアレンジされた美しい紫陽花を見ることができるようになりました。
大小、たくさんの花びらが重なり合って咲く「テマリテマリ」 秋になると、アンティークカラーと呼ばれるシックな色に変化する「秋色紫陽花」 ライムグリーンの蕾から華やかな真っ白の花が咲く「アナベル」 波打つ花形と淡くクリアな発色が特徴の「メール」
「移り気・浮気」といった花言葉から結婚式では避けられることが多かった紫陽花も、最近では、その見た目の愛らしさから、気にせずに取り入れられる例も増えてきています。
また、「青=辛抱強い愛情」「ピンク=元気な女性」「白=寛容」と色ごとにも花言葉があり、母の日には子から母へピンクの紫陽花が贈られることもあります。
<コラム> 「紫陽花」は、実は「あじさい」じゃない?
日本人でも読むのが難しい「紫陽花」。
なぜ、「あじさい」は「紫陽花」と書かれるようになったのでしょうか。
「紫陽花」の名付け親は、10世紀に活躍した学者、源順(みなもとのしたごう)です。
源順は、中国の白居易(はくきょい)が書いた詩を読みました。その詩のタイトルこそ、「紫陽花」です。
何年植向仙壇上 どの時代に仙界に植えられたものなのだろう
早晩移栽到梵家 いつお寺に植え替えられたものなのだろう
雖在人閒人不識 人の世にいながら誰も知らない
與君名作紫陽花 君のために紫陽花と名付けよう
源順は、この「紫陽花」の詩を見て、「あじさいのことをいっているのだろう」と考えました。でも、実際は「紫陽花」は「あじさい」ではなく、別の花を指していたとか。「ライラック」だったのではないか、という説もありますが、真相は謎のままのようです。
ともあれ、青や赤、紫に美しく咲く紫陽花の姿を考えると、日本人としては、源順が「紫陽花」の字面から「あじさい」の花を連想したのも、うなずける気がします。
2. 紫陽花の見頃、日本の「梅雨」っていつ?
日本の紫陽花の見頃は、「梅雨(つゆ)」と呼ばれる時期に当たる、6~7月頃です。梅雨は、東アジア特有の季節現象で、雨季の一種です。
梅雨が始まることを「梅雨入り(つゆいり)」といい、梅雨が終わることを「梅雨明け(つゆあけ)」といいます。梅雨入りすると、梅雨明けまでの1カ月ほど、曇りやしとしととした雨の降る日が多くなります。
水分がたくさん必要な紫陽花にとっては、梅雨は絶好の咲き時。雨の中美しく凛と咲く紫陽花は、梅雨の風物詩の一つとなっています。
<コラム>紫陽花に見る、古人の心
日本には、古くから「和歌(わか)」と呼ばれる詩の文化があります。
「和歌」でよく出てくるのが、草花です。草花は、作者の気持ちや物の例えに用いられます。
日本で一番古い和歌集である「万葉集(まんようしゅう)」には、紫陽花を用いた和歌が2首あります。
「言問はぬ 木すら味狭藍 諸弟らが 練の村戸に あざむかえけり」
(読み)こととはぬ きすらあじさい もろとらが ねりのむらとに あざむかえけり
(意味)物言わぬ木でさえ、紫陽花のように移り変わりやすい。諸弟らの巧みな言葉に、私はだまされてしまった
「安治佐為の 八重咲く如く やつ代にを いませわが背子 見つつ思はむ」
(読み)あじさいの やえさくごとく やつよにを いませわがせこ みつつしのはん
(意味)紫陽花のように群がって咲く花のように、いつまでも健やかにおいでください。この花を見るたびにあなたを思います
どちらも、紫陽花の特徴をよく捉え、自分の気持ちを花に重ねてつづられています。
3. 梅雨の風物詩 紫陽花の人気スポット
梅雨の時期、雨露にぬれて咲く紫陽花はただそれだけでも見応えがありますが、伝統的な日本建築が背景なら、風情もひとしお。3章では、寺社を中心とした全国各地の紫陽花の人気スポットをご紹介します。
【神奈川】明月院(めいげついん)
数ある紫陽花スポットの中でも、特に人気の高い明月院。境内に咲き乱れる数千株の紫陽花は明月院ブルーともいわれ、見る人の心を動かします。
所在地…神奈川県鎌倉市山ノ内189
アクセス…JR北鎌倉駅より徒歩10分
https://trip-kamakura.com/place/230.html
【千葉】本土寺(ほんどじ)
別名「紫陽花寺」として知られる本土寺なら、5万株以上のさまざまな種類の紫陽花を5千株の花菖蒲とともに楽しむことができます。
所在地…千葉県松戸市平賀63
アクセス…JR常磐線北小金駅より徒歩15分
http://www.hondoji.net/
【埼玉】幸手権現堂桜堤(さってごんげんどうさくらづつみ)
関東の桜の名所として有名な幸手権現堂桜堤。6月には桜に替わって約100種1万6千株の紫陽花が咲き並びます。白紫陽花として人気の高い3千株の「アナベル」も、見どころの一つ。
所在地…埼玉県幸手市大字内国府間(うちごうま)887‐3
アクセス…東武日光線幸手駅より朝日バス五霞町役場行き乗車、権現堂下車
http://www.gongendo.jp/
【東京】白山神社(はくさんじんじゃ)
6月に開催される「文京あじさいまつり」では、白山神社の境内から白山公園にかけて約3千株の多彩な紫陽花を目にすることができます。期間中は土日を中心に、模擬店の出店や地域団体によるコンサートなど各種イベントも開催され、多くの人でにぎわいます。
所在地…東京都文京区白山5-31-26
アクセス…都営三田線白山駅より徒歩3分/東京メトロ南北線本駒込駅より徒歩5分
https://www.city.bunkyo.lg.jp/bunka/kanko/event/matsuri/ajisai.html
【愛知】形原温泉あじさいの里(かたはらおんせんあじさいのさと)
毎年約10万人が訪れる、県下有数の規模を誇る紫陽花の景勝地。温泉地ならではのしっとりと落ち着いた雰囲気の中で、約5万株の紫陽花を楽しむことができます。期間中は、日没から閉園まで会場全体がライトアップされ、運が良いときにはホタルにも出会えるかも。
所在地…愛知県蒲郡市金平町一ノ沢28-1
アクセス…JR蒲郡駅よりタクシーで約15分
※あじさいまつり会期中は蒲郡駅南口より直行バスあり
http://www.katahara-spa.jp/
【大阪】久安寺(きゅうあんじ)
1,300年近い歴史を持つ久安寺は、「花のお寺」として毎年多くの参拝者が訪れる人気スポット。6月中旬~下旬には、見頃を終え刈り取られた紫陽花が、境内の池でぷかぷかと浮かぶ様子を見ることができます。
所在地…大阪府池田市伏尾町697
アクセス…阪急池田駅より阪急バス15分、久安寺下車すぐ
https://kyuanji.jp/
<コラム>お寺に紫陽花が多いのはなぜ?
紫陽花の名所といえばお寺!というほど、日本では多くの寺社で紫陽花が植えられています。
理由は諸説ありますが、一つには、流行病で死者が出やすかった6月に、亡くなった人を弔うため、といわれています。梅雨に見頃を迎え、挿し木で簡単に増やすことができる紫陽花は、死者へのたむけの花としてちょうど良かったのかもしれません。
4. まとめ
いかがでしたか?
紫陽花は、日本生まれの落葉低木の一つです。
20世紀に西洋で「セイヨウアジサイ」という品種が誕生し、世界で流通するようになりました。
日本で紫陽花の人気が出始めたのは、第二次世界大戦以降に観光資源として注目されるようになってからです。
今では、品種改良や生産技術の向上が進められ、全国の花屋で、鉢植えや切り花などさまざまにアレンジされた美しい紫陽花を見ることができます。
紫陽花の見頃は、「梅雨(つゆ)」と呼ばれる時期に当たる、6~7月頃です。梅雨入りすると、梅雨明けまでの1カ月ほど、曇りやしとしととした雨の降る日が多くなります。雨の中美しく凛と咲く紫陽花は、梅雨の風物詩の一つとなっています。
日本で人気の紫陽花スポットとして、以下の6カ所が挙げられます。
【神奈川】明月院(めいげついん)
【千葉】本土寺(ほんどじ)
【埼玉】幸手権現堂桜堤(さってごんげんどうさくらづつみ)
【東京】白山神社(はくさんじんじゃ)
【愛知】形原温泉あじさいの里(かたはらおんせんあじさいのさと)
【大阪】久安寺(きゅうあんじ)
日本で誕生後、海外を旅し、世界中で多くの人に愛される花となった紫陽花。色や形などさまざまな変化を遂げてもなお、故郷日本で見る紫陽花の美しさは格別です。
梅雨の季節にはぜひ一度、紫陽花の国日本を訪ねてみてくださいね。
参考)
NHK出版「アジサイ(ハイドランジア)」,『みんなの趣味の園芸』,https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-12(閲覧日:2022年5月16日)
NHK出版「アジサイの歴史、広がる品種の世界」,『みんなの趣味の園芸』,https://www.shuminoengei.jp/?m=pc&a=page_tn_detail&target_xml_topic_id=textview_33053(閲覧日:2022年5月19日)
農耕と園藝onlineカルチべ「第20回 西洋アジサイはすべて『日本のアジサイ』からつくられた~山本武臣『アジサイの話』」,https://karuchibe.jp/read/5146/(閲覧日:2022年5月18日)
LOVEGREEN「アジサイ(紫陽花)の育て方」,『植物図鑑』,https://lovegreen.net/library/garden-tree/p88849/(閲覧日:2022年5月18日)
はな物語「紫陽花の歴史 くすぶっていた時代から人気者になるまで」,https://www.hanamonogatari.com/blog/1273/(閲覧日:2022年5月19日)
株式会社日比谷花壇「母の日に贈りたいあじさい(紫陽花)の花言葉と種類」,『hibiyakadan.com』,https://www.hibiyakadan.com/lifestyle/m_0018/#:~:text=%E3%81%82%E3%81%98%E3%81%95%E3%81%84%E3%81%AE%E8%8A%B1%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%AF,%E3%82%93%E3%81%A7%E8%B4%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(閲覧日:2022年5月19日)
公益社団法人鎌倉市観光協会「明月院」,『鎌倉観光公式ガイド』,https://trip-kamakura.com/place/230.html(閲覧日:2022年5月18日)
NPO法人幸手権現堂桜堤保存会「県営権現堂公園」,http://www.gongendo.jp/(閲覧日:2022年5月18日)
形原観光協会「愛知県蒲郡市あじさいの里 形原温泉」,http://www.katahara-spa.jp/(閲覧日:2022年5月18日)
Aichi Now運営事務局「形原温泉あじさい祭り」,『愛知県の公式観光ガイドAichi Now』,https://www.aichi-now.jp/spots/detail/1310/(閲覧日:2022年5月18日)
久安寺,https://kyuanji.jp/(閲覧日:2022年5月18日)
川合康三「人間に在りと雖も人識らず、君の与に名づけて紫陽花と作す――白居易「紫陽花」」,『漢字文化資料館』,https://kanjibunka.com/yomimono/rensai/yomimono-9281/(閲覧日:2022年5月20日)
株式会社ニッポン放送「アジサイの漢字はなぜ『紫陽花』と書くのか」『ニッポン放送NEWS ONLINE』,https://news.1242.com/article/291621(閲覧日:2022年5月20日)