「日本で働くと、脱退一時金がもらえるよ」と聞いたことはありませんか?「脱退一時金」とは何でしょう?
脱退一時金と調べると「年金」という言葉も目にします。実は脱退一時金と年金は違う意味の言葉です。
この記事では、脱退一時金について詳しく説明します。脱退一時金はどのくらいもらえるのか、受け取るために必要なことなどを説明します。
1. 脱退一時金とは
脱退一時金と一緒によく目にするのが「年金」という言葉です。年金と脱退一時金は異なります。
年金とは、高齢者が安心して生活できるように、みんなで高齢者の生活を支える仕組みです。毎月一定の金額(年金保険料)を納付することで、高齢になり働くことが難しくなった場合などにお金を受け取ることができます。
年金にはさまざまな種類がありますが、多くの人が関わっているのは「国民年金」と「厚生年金」です。
・国民年金:国籍に関わらず、日本国内に住む20~59歳の人全てが加入する制度です。基本的に全員が国に保険料を支払います。払い方は、人によってさまざまです。
・厚生年金:日本の会社で働いている人は基本的に加入している制度です。年金保険料は会社を通して支払います。
一方、脱退一時金制度とは、日本国籍を持っていない外国人労働者が、日本で働いている期間に納めた年金保険料の一部を返金してもらうための仕組みです。日本から帰国して2年以内に手続きすることで、返金してもらうことができます。
2. 脱退一時金を受け取る条件
ここからは、脱退一時金を受け取る条件について解説します。
脱退一時金は、下記の条件に当てはまる人が受け取ることができます。
【国民年金に加入していた場合】
・国民年金を6カ月以上納付していた
・日本国籍を持っていない
・年金を支払った期間が10年より短い
・障害基礎年金などの年金の支給を受けていない
・日本に住んでいない
【厚生年金に加入していた場合】
・厚生年金を6カ月以上納付していた
・日本国籍を持っていない
・年金を支払った期間が10年より短い
・障害基礎年金などの年金の支給を受けていない
・日本に住んでいない
国民年金と厚生年金の両方に加入していた場合、国民年金と厚生年金の加入期間を合算して脱退一時金を申請することはできません。注意しましょう。
3. 脱退一時金の計算方法
ここからは、脱退一時金がいくらもらえるのか、計算する方法をご紹介します。脱退一時金の金額は、年金保険料を納めていた期間によって変わります。
【国民年金】
年金保険料を最後に納めた月が属する年度の年金保険料額と、年金保険料を納めた月数を使って計算します。なお、2021年(令和3年)4月より、脱退一時金の支給上限が60月(5年)に改正されています。最後に年金保険料を納付した月が2021年3月より前の場合は、36カ月(3年)が支給額の上限となります。
計算式は下記です。
「最後に年金保険料を納付した月が属する年度の年金保険料額×1/2×下記表の数字」
数字一覧
年金(保険料)を納めた月数 | 計算式に入れる数字 |
6カ月以上12カ月未満 | 6 |
12カ月以上18カ月未満 | 12 |
18カ月以上24カ月未満 | 18 |
24カ月以上30カ月未満 | 24 |
30カ月以上36カ月未満 | 30 |
36カ月以上42カ月未満 | 36 |
42カ月以上48カ月未満 | 42 |
48カ月以上54カ月未満 | 48 |
54カ月以上60カ月未満 | 54 |
60カ月以上 | 60 |
実際に計算してみましょう。
例)
・納めていた年金保険料は月額16,590円(年金は毎年料金の見直しが行われています。自分が納めていた年金の額を確認しましょう)
・年金保険料を納めていた期間は3年
計算式
16,590円×1/2×36(上記表参考)=298,620円
この298,620円が、脱退一時金としてもらえる金額です。
納めていた年金保険料や、納めていた期間を知りたい場合は「ねんきんネット」を利用してみましょう。
年金手帳や年金証書に記載してある基礎年金番号とメールアドレスがあれば利用することができます。
ねんきんネット
https://www.nenkin.go.jp/n_net/
【厚生年金】
厚生年金の脱退一時金の計算式は下記です。
「厚生年金に加入していた期間の平均標準報酬額×支給率(保険料率×1/2×支給額計算に用いる数)」
平均標準報酬額とは、厚生年金を納めていた期間の給与と賞与の合計額を1カ月当たりの平均額に換算したものです。
支給額計算に用いる数は、年金の計算式でご紹介した表と同じです。
少し難しいので、計算の一例をご紹介します。
例)
・月給17万円
・賞与2カ月(1年に1回支給)
・厚生年金に入っていた期間 3年間
まずは平均標準報酬額を計算します。
月給170,000円×36カ月(厚生年金に入っていた3年間)=6,120,000円
賞与170,000円×6カ月(3年分の賞与)=1,020,000円
(6,120,000円+1,020,000円)÷36カ月=198,000円(1,000円未満の端数は切り捨て)
この「198,000円」が平均標準報酬額となります。
では、平均標準報酬額を使用して、実際にもらえる脱退一時金を計算します。
198,000円×18.3%(保険料率)×1/2×36=652,212円
18.3%(保険料率)とは、厚生年金保険の保険料です。平成29年9月より、18.3%で固定されています。
上記計算式の652,212円が脱退一時金の金額です。
ただし、厚生年金の脱退一時金には所得税がかかります。
上記の場合だと、所得税20.42%を引いた519,030円が実際に脱退一時金としてもらえる金額となります。
引かれた所得税は、「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署へ提出することで返ってくる場合があります。
4. まとめ
今回は脱退一時金についてご紹介しました。
脱退一時金とは、年金とは異なります。年金は日本国民が互いにお金を出し合って助け合う仕組みのことです。
一方、脱退一時金制度とは、日本国籍を持っていない外国人労働者が、日本で働いている期間に納めた年金保険料の一部を返金してもらうための仕組みです。返金されるお金を脱退一時金と言います。
脱退一時金を受け取るには、帰国後2年以内に請求手続きを行う必要があります。
脱退一時金を受け取るのは難しいと考えてしまうかもしれませんが、日本で働いていた期間に納めた年金保険料を無駄にしないためにも、手続きの流れをしっかりと理解して請求しましょう。
参考)
日本年金機構「日本の国民年金制度」,『日本年金機構ホームページ』, https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kaigai/kokunenseido.files/1Japanese.pdf(閲覧日:2022年10月17日)
日本年金機構「国民年金の脱退一時金として、いくらもらえますか。」,『日本年金機構ホームページ』,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042802.html(閲覧日:2022年10月17日)
厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方]第3 公的年金制度の体系(年金給付)」,『厚生労働省ホームページ』https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_003.html(閲覧日:2022年10月17日)
株式会社BOW「日本で働く外国人が帰国時に貰える脱退一時金とは?」,『株式会社BOWホームページ』https://boworld.co.jp/2022/02/08/19/(閲覧日:2022年10月17日)
外国人雇用・就労ビザステーション「外国人が帰国する際の厚生年金の脱退一時金とは」,『外国人雇用・就労ビザステーションホームページ運営:金森国際行政書士事務所』https://visa-station.jp/shurou/gaikokujin-shakaihoken/gaikokujin-dattai-ichijikin/#:~:text=%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%81%AF%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%9A%9C,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(閲覧日:2022年10月17日)