「やさしい日本語」とは 作り方・言い換えに役立つポイント集付き!

「会議で使われる日本語が難しい。やさしい日本語なら、もっと理解して意見も言えるのに…。」

あなたの会社の外国人従業員は、こんな風に思っているかもしれません。

あなた自身も、外国人従業員への指示がうまく伝わっていなかった、彼ら・彼女らが言いたいことが分からず、もどかしい思いをした、という経験があるのではないでしょうか?

外国人雇用比率が高い産業の企業を対象とした調査(2019年)では、外国人労働者を活用する上での課題として、「コミュニケーションに苦労する」と回答した割合は44.1%に上りました[1]

このようなミスコミュニケーションを解決するために有益なのは「やさしい日本語」です。

この記事では、「やさしい日本語」の概要から、導入のメリット、実際の作り方を紹介します。ページの最後には、「やさしい日本語」作成のポイント集もつけていますので、ぜひ参考にしてみてください。

[1] 日本総研「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果」,2019年4月17日公開,p13,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf (閲覧日:2022年7月6日)

外国人雇用のガイドブック_まなびJAPAN

1.「やさしい日本語」とは?

はじめに、「やさしい日本語」の概要生まれた背景、そしてニーズについて説明していきます。

1.1 やさしい日本語

「やさしい日本語」とは、「日本語の理解やコミュニケーションに関して何らかの困難を抱えている人のために配慮した日本語」のことです。

日本語能力試験(JLPT)の旧課程で3、4級レベル、現在の課程では、3~ 5級に相当するレベルになります。これは、小学3年生が理解できるレベルと言われています。

日本語能力試験(JLPT)の各レベル認定の目安

レベル認定の目安
N1幅広い場面で使われる日本語を理解できる
読む:論理的にやや複雑な文章や、抽象度の高い文章(新聞の論説、評論など)が理解できる
聞く:自然なスピードの、まとまりのある会話やニュースが理解できる
N2幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる
読む:論旨の明快な文章(新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論など)が理解できる
聞く:自然に近いスピードの、まとまりのある会話やニュースが理解できる
N3日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
読む:日常的な話題について書かれた文章が理解できる(難易度が高い文章も、言い換え表現があれば理解できる)。新聞の見出しから概要をつかむことができる。
聞く:やや自然に近いスピードの、日常的な会話がほぼ理解できる
N4基本的な日本語を理解できる
読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた、身近な話題の文章が理解できる
聞く:ややゆっくりと話される、日常的な会話がほぼ理解できる
N5基本的な日本語をある程度理解できる
読む:ひらがなやカタカナ、基本的な漢字を使って書かれた、定型的な語句や文が理解できる
聞く:ゆっくりと話される、短い日常会話から、必要な情報を聞き取ることができる

参考)
国際交流基金,日本国際教育支援協会「N1~N5:認定の目安」,『日本語能力試験 JLPT』,https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html(閲覧日:2022年7月8日)

※日本語能力試験(JLPT)の各レベルの詳細は、上記の日本語能力試験 JLPT(国際交流基金,日本国際教育支援協会)のサイトにて最新情報を確認してください。

1-2. 「やさしい日本語」の起源

「やさしい日本語」が生まれたきっかけは今から27年前、1995年の阪神淡路大震災の反省にさかのぼります。国際防災の10年国民会議事務局の調査によると、外国人住民の死亡率は日本人の約2倍、負傷率は約2.4倍でした。

これを機に、「災害などの緊急時には、外国人にどのように情報を伝達すればよいのか」が問われるようになり、「やさしい日本語」の研究が始められました。

1-3. 「やさしい日本語」が必要とされる背景

「やさしい日本語」は、日本国内、外国人双方から必要とされています。具体的には、以下のような背景があります。

日本国内のニーズ
・日本国内のグローバル化が進み、他言語話者同士の共通語が求められている
・社会全体の災害意識の高まり
・行政手続きを効率化したい

日本に住む外国人のニーズ
・広く理解しやすい情報提供を受けたい
・速く、正確にコミュニケーションを取りたい

1つずつ見ていきましょう。

日本国内のニーズ

・日本国内のグローバル化が進み、他言語話者同士の共通語が求められている

近年、外国人住民の増加に伴い、日本語を母語としない人々と接する機会が増えています。その多くは英語を母語としない人々です。

2021年末のデータでは、在留外国人の数は約276万人に上り、国籍の内訳は多い順に、中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ブラジルで、英語が公用語である国はフィリピンのみです。さらに上位10位をみても、8位のイギリスを加えた2か国しかありません。

彼らとコミュニケーションをとるために、英語が最良の手段とは言えません。そもそも日本人の側が英語に対応できていない現状を踏まえると、なんとか日本語でコミュニケーションを取る必要が出てくるのです。

・社会全体の災害意識の高まり

2011年の東日本大震災、2014年の広島豪雨、2016年の熊本地震など、近年日本には大きな災害が相次いでいます。首都直下型地震の発生も予想される中、社会全体の防災意識が高まっています。

阪神・淡路大震災での学びを基に、多くの自治体が、外国人住民を災害弱者としない政策を推進しています。実際に災害が起きたとき、適切な支援のために「やさしい日本語」の活用は欠かせません。

例えば、総務省は「災害時外国人支援情報コーディネーター」として外国人被災者と地方自治体との間をつなぐ役割を果たす人材を養成しています。

災害時、外国人支援情報コーディネーターは各地の災害多言語支援センター等に配置されます。そこで、行政から提供される災害情報や生活の再建に必要な情報を整理し、外国人被災者に向けて、やさしい日本語を含む多言語での情報提供を行います。

また、避難所を巡回したり、窓口を設けたりして、外国人被災者のニーズを把握し行政に届けるという役割も果たします。

・行政手続きを効率化したい

日本に住む外国人は、在留資格を保持するために定期的に行政手続きが必要です。しかし、役所での手続きは日本人にとっても複雑で分かりにくいものが多く、これを外国人が行うのは一筋縄ではいきません。

そこで、ウェブサイトにやさしい日本語を取り入れたり、職員向けにやさしい日本語の研修を実施したりする自治体が増えています。特に、外国人労働者が多い自治体や、地域活性化のため外国人の招致に力を入れている自治体は力を入れています。

日本に住む外国人のニーズ

・広く理解しやすい情報提供を受けたい

外国人にも、「やさしい日本語」は求められています。

先に挙げたように、日本に住む外国人のなかには英語を母語としない人々が数多く存在します。また、日本人側も、誰もが英語で十分なコミュニケーションを取れるとは限りません

そんな状況で、日本人が「やさしい日本語」で情報発信を行うことは、外国人側にとっても理解しやすい場合が多いのです。

実際に、東京都に住む外国人を対象にした調査では、情報を閲覧するときには「やさしい日本語」が良いと回答した割合は76%であり、英語の66%よりも高くなっています。

また、川崎市の外国人を対象にした調査では、「日本語を自由に話せる人」を見ると、「外国語への翻訳」よりも「やさしい日本語」を重要だと考える人が多いという結果が出ています。

参考)電通ダイバーシティ・ラボのプロジェクトである「やさしい日本語ツーリズム研究会」と明治大学国際日本学部山脇啓造ゼミナールが共同制作したやさしい日本語ラップ「やさしい せかい」

・速く、正確にコミュニケーションを取りたい

ある程度日本語が話せる外国人住民にとっては、日本人とコミュニケーションをとるときにも、「やさしい日本語」が役に立ちます。特に、緊急で情報を伝えたい場面では、翻訳・通訳に時間をかけるよりも、外国人・日本人双方が理解できる「やさしい日本語」を使う方が、迅速にやりとりができるでしょう。

また、慌てて翻訳・通訳をすることで誤訳が発生して、互いの認識に齟齬が生まれることも防ぐことができます。

コラム <こんなところが難しい!実際に感じた「わかりにくい日本語」>

日本で働く外国人にとって 、日本語のどんなところが難しいのでしょうか。
当社で働くベトナム人のヴァンさんにインタビューしました!
ヴァンさんは10年間の日本語教師経験があり、言語学の観点からも日本語に精通しています。

まず、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字と文字が4つある点、そして漢字の読み方が複数ある点も難しいと感じます。

―確かに…!覚える事柄が多いですよね。

そうなんです。あとは、敬語のフレーズが長いこと主語を言わないことなど、文法的にも難しいと感じます。例えば、「教えてくれませんか」と言いたいとき、日本人は丁寧に「教えていただけませんでしょうか」と言いますよね。

でも外国人にとっては長いとわからないこともあるので、短くて良いのにって思いますね(笑)

―敬語はそもそも複雑で難しいと思っていました。でも、長くなるとより難しいと感じるんですね。

はい。日本人同士では主語を言わなくても会話ができますが、外国人にとっては誰の話をしているのか、何の話をしているのかがわかりにくいんです。

―なるほど…。これからは主語を話すことを意識してみます!

ぜひ(笑)それから、日本語の曖昧な表現も難しいです。例えば、「それはちょっと…。」で止められてしまうと、何を言いたいのかわかりにくいです。また、「大丈夫」という言葉も難しいです。

―「大丈夫」という言葉ですか?

例えば「~してもよいですか」と聞いた後に、「大丈夫」と言われると、しても良いのかしてはダメなのかが判断しにくいです。

―それは私もわからないときがあります。日本には、相手の言いたいことを推測する文化があるので、外国人にとっては難しいですよね。ヴァンさん、今日はいろいろお話してくださりありがとうございました!

2.「やさしい日本語」導入のメリット

「やさしい日本語」は、日本人と外国人の両者がうまくコミュニケーションを取るために必要だということがわかりました。この章では、企業に導入するメリットを説明します。

「やさしい日本語」を導入することで、企業は以下のメリットを得ることができます。

・コミュニケーションの活発化と企業の発展につながる
・コストの削減につながる
・AI翻訳の下準備になる
・外国人、日本人両者の言語スキルを向上させる

コミュニケーションの活発化と企業の発展につながる

「やさしい日本語」を用いることで、外国人従業員は話の内容をより多く理解することができます。

例えば、会議などの話し合いの場で「やさしい日本語」を用いると、今までは3割しか理解できなかった内容が8割理解できる、といった具合です。話の流れを理解できれば、外国人従業員は自分の意見を発信することができます

このように日本人と外国人の間でコミュニケーションが活発化することで、外国人従業員の持つ新しい価値観が企業内に持ち込まれ、既存の意見と相まってイノベーションを創出する機会が生まれます。

また、「やさしい日本語」は会議などの場だけでなく、外国人従業員と日本人従業員の日常場面コミュニケーションを円滑にしてくれます。外国人従業員が理解できる内容が増えることで、できる仕事も増えて生産性の向上につながると考えられます。

コストの削減につながる

「やさしい日本語」を使うことは、他言語への翻訳・通訳の時間、金銭コストの削減につながります。

1章にも書いたように、現在は日本に住む外国人の国籍多様化し、様々な場面で多言語対応が求められています。ただ、多言語で翻訳・通訳できる人材を確保するのは、時間も費用もかかるため現実的ではありません。

AI翻訳の下準備になる

Google翻訳などのAI翻訳を使って難しい文章をそのまま訳そうとすると、違う意味になってしまうことがあります。その場合は、「やさしい日本語」に直してから翻訳する必要があります。

ここで、『入門・やさしい日本語:外国人と日本語で話そう』の第6章で取り上げられている実験を紹介します[2]

この実験では、「人身事故のため、ダイヤに大幅な乱れが生じております。」という日本語を8言語に訳出しました。すると、英語の訳は「人的障害のために、ダイヤモンドはひどく乱されました(Due to personal injury, diamonds have been severely distributed.)」と訳され、意図した文章とはまったく違う文章になってしまいました。

しかし、これを「事故がありました。電車は予定通りに動いていません。」と「やさしい日本語」に直して訳してみると、英語の訳は「事故がありました。電車は予定通りに動いていません。(There has been an accident. The train is not moving as planned.)」と正しく訳出されます。

このように、難しい文章やさしい日本語に直してからAI翻訳を用いることで、誤訳を減らすことができます。

外国人、日本人両者の言語スキルを向上させる

外国人にとって「やさしい日本語」を使うことは、日本語学習をする意欲の向上にも役立ちます。

「やさしい日本語」を用いた会話であれば、外国人従業員は理解しやすいので、話に加わりやすくなります。そして、その中で出てきた単語やフレーズを知り、覚えるきっかけになります。

語彙が増えることで、会話の内容がより理解しやすくなるので、積極的に日本人とコミュニケーションを取りたいと思えるようになります。

また、日本人にとっても「やさしい日本語」で話すことは、伝える力とロジカルシンキングのスキルを向上させることに役立ちます。

なぜなら、「やさしい日本語」を用いるときには、外国人が理解できるように文章を構成し結論を先に述べる工夫が必要です。また、外国人が理解しやすい言葉になっているか一言ずつ考えながら話す必要があります。

このような試みは、自分の考えを相手にわかりやすく伝える力と、論理的に説明する力を伸ばすことにもつながり、商談や企画のプレゼンテーションをする時などにも、活かすことができるのです。

[2] 吉開章『入門・やさしい日本語:外国人と日本語で話そう』,アスク出版,2020,p95-97.

3.「やさしい日本語」導入のデメリット

現在は、各自治体などが「やさしい日本語」を用いてパンフレットや通知文を作成していたり、NHKが「やさしい日本語」で書いたニュースサイト”NHK News Web Easy”を公開していたりと、「やさしい日本語」が広く活用され、この記事で取り上げたようなメリットも認識されてきています

一方で、やさしい日本語には以下のようなデメリットも存在します。

・各社で運用ルールを作る必要がある
・内容の取捨選択が必要となる
・日本人のなかに心理的抵抗が生じることがある

各社で運用ルールを作る必要がある

「やさしい日本語」には、専門家が定めた共通ルールが存在しないため、ガイドラインなどを参考して、各社で運用ルールを作成する必要があります。

自社で「やさしい日本語」を使った情報発信をしたいという場合には、まずはどのような運用ルールにするのか(どんな表記、漢字を採用するかなど)を定めなければならず、運用をはじめるまでに一定の労力がかかります。

内容の取捨選択が必要となる

公文書などには多くの専門用語が使われ、手続きのプロセスなども詳細に書かれています。しかし、それを「やさしい日本語」に直すには、正確に伝わるよう考慮しながら、一部の内容は削らなければなりません。そのため、作成者が伝えたい内容をすべて伝えきることは非常に難しくなります。

日本人のなかに心理的抵抗が生じることがある

「やさしい日本語」を用いる際は、敬語やクッション言葉をなるべく避ける必要があります。

例えば「恐れ入りますが、明日(あす)、書類を提出していただけますか。」という文章は、日本人にとっては丁寧です。

しかし、外国人にとっては難しいため、「明日(あした)、この紙を出してください」などと、簡潔に言う必要があります。一方、これを第三者の日本人が聞くと、「もっと丁寧に言うべきだ」と感じてしまうかもしれません。

また、「やさしい日本語」を使う際は、婉曲的な表現ではなく、直接的な表現を用いる必要があります。例えば、間違いを指摘するときは「ここちょっと…」ではなく、「ここは間違っています」とはっきり述べなければなりません。

発言する側の日本人はこういった直接的な表現の仕方に心理的抵抗を感じる場合があります。

このようなデメリットが考えられますが、今後はますます外国人従業員は増加していくため、今までの価値観にとらわれず「やさしい日本語」をうまく使って、国籍を問わずに全ての人が良いコミュニケーションをとれるように工夫していく必要があるのではないでしょうか。

4.「やさしい日本語」の作り方

「やさしい日本語」で話すときには、いくつかポイントがあります。

4-1. ハサミの法則

「やさしい日本語」を話すときにまず心がけるのは、「ハサミの法則」です。この法則は、「はっきり言う」「さいごまで言う」「みじかく言う」の頭文字をとったものです。

・はっきり言う…論理的に、発音をはっきり
・さいごまで言う…文末をあいまいにしない
・みじかく言う…一文を短く

参考)「やさしい日本語落語普及委員会」が制作した「桂かい枝 入門・やさしい日本語『ハサミの法則』」

4-2. ワセダ式

一文を短くするために参考になる考え方が、「ワセダ式」です。これは、「分けて言う」「整理して言う」「大胆に言う」の頭文字をとったものです。

・分けて言う…1つの文には1つの述語になるように、文を分ける
・整理して言う…伝えたい情報が多いときは、その中でも優先すべき情報だけを伝えるよう内容を整理する
・大胆に言う…大胆な言い換えをする。敬語は使わず「です・ます・ください」を使い、難しい言葉は簡単な言葉に直す

紹介した「ハサミの法則」「ワセダ式」以外にも、気を付けるべきポイントがいくつかあります。そちらは6.「やさしい日本語」ポイント集で紹介するので、ぜひご活用ください。

4-3. 「やさしい日本語」関連サイト・書籍

「やさしい日本語」を書いたつもりでも、適切な表現か自信を持てないこともあるかもしれません。以下では、「やさしい日本語」の確認ツールウェブサイト等を紹介します。加えて、「やさしい日本語」について詳しく知ることができる書籍も紹介します。

チュウ太の道具箱https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/tools.html#input
外国人にとって難しい文章かどうかを、漢字語彙の点から判断できます。難易度は日本語能力試験の語彙レベルに基づいて表示されます。メールなどの文章を作った際に、「やさしい日本語」になっているかが確認できるためおすすめです。

・文化庁「別冊 やさしい日本語書き換え集」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/92484001_02.pdf
例えば「確定申告」のような、生活や仕事で用いられる難しい用語を「やさしい日本語」に書き換えています。就労における手続きを説明する際や、難解な用語をわかりやすく説明する際に活用できます。

・吉開章『入門・やさしい日本語:外国人と日本語で話そう』アスク出版
「やさしい日本語」の歴史や、「やさしい日本語」を作成するときのポイント、練習問題が掲載されています。「やさしい日本語」をより深く知りたい方におすすめです。

5.「やさしい日本語」の導入事例

実際に、「やさしい日本語」を導入している企業では、具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。

セブン-イレブン・ジャパンでは、留学生など従業員として働く外国人向けに、「やさしい日本語」で書かれたパンフレットを作成しています。同時に、外国人を雇う日本人オーナーに対しても、「やさしい日本語」で話すポイントを周知しています。

また、メルカリでは、「やさしい日本語」と「やさしい英語」を組み合わせた「やさしいコミュニケーション」を導入。国籍・言語に関係なく、全員がコミュニケーションを円滑に行い、インクルーシブな環境を実現することを目指しています。

6.「やさしい日本語」ポイント集

以下の画像をクリックすると、PDFファイルをダウンロードいただけます。

7. まとめ

「やさしい日本語」は、「日本語の理解やコミュニケーションに関して何らかの困難を抱えている人のために配慮した日本語」のことで、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに誕生しました。行政手続きや災害時の情報提供などの場面で、外国人にわかりやすく情報を伝えるために用いられています。

「やさしい日本語」が必要とされる背景には、「外国人住民の増加で、多言語話者同士がコミュニケーションをする際の共通語が必要になった」「災害時、外国人被災者をサポートするために、的確な情報提供・情報収集を行いたい」「外国人にとって複雑な行政手続きを、わかりやすくしたい」といった国内のニーズがあります。

また、日本に住む外国人にとっても、「広く理解しやすい情報提供を受けたい」「速く、正確にコミュニケーションを取りたい」といったニーズがあります。

企業が「やさしい日本語」を導入することには多数のメリットが挙げられます。例えば、外国人従業員と日本人従業員の間でのコミュニケーションが活発になることで、外国人従業員の新たな価値観を取り入れることによるイノベーション創出が期待できます。

また、日本人従業員が「やさしい日本語」を使うことで、伝える力やロジカルシンキングのスキルを鍛えられる側面もあります。

一方、デメリットとしては、各社で運用ルールを作る必要があり運用をはじめるまでに労力がかかること、伝える内容を取捨選択する必要があること、直接的な表現心理的抵抗を抱く日本人がいることが挙げられます。

自社で「やさしい日本語」を使った情報発信をする際には、ハサミの法則やワセダ式、「やさしい日本語」ポイント集を参考にしてみましょう。また、4節で紹介したように、作成した文章をチェックできるツールもあるので、目的に応じて使ってみてください。

実際に「やさしい日本語」を導入している企業の例を見てみると、セブン-イレブン・ジャパンでは、外国人従業員向けに「やさしい日本語」を使ったパンフレットを作成したり、日本人オーナー向けに「やさしい日本語」で話すポイントを周知したりしています。

また、メルカリでは「やさしい日本語」と「やさしい英語」を組み合わせた「やさしいコミュニケーション」を導入し、国籍・言語を超えたインクルーシブな環境づくりを目指しています。

現在、日本に住む外国人の数は増加しており、日本語が母語ではない人とのコミュニケーションは、観光地だけでなく企業内や地域でも不可欠になってきています。日本語が通じないから距離を取るのではなく、「やさしい日本語」を用いてコミュニケーションをとろうと試してみましょう。

国籍や言語の差を超えて相手の意見や価値観を受け入れ、自分の意見も伝えるという積み重ねが、周囲の環境を変え、企業を変え、ひいては日本社会を変えることにつながるのではないでしょうか。

外国人雇用のガイドブック_まなびJAPAN

参考)
総務省「災害時外国人支援情報コーディネーター制度に関する検討会報告書(本文)」,2018年3月公開,https://www.soumu.go.jp/main_content/000539749.pdf(閲覧日:2022年7月7日)
総務省「情報難民ゼロプロジェクト報告」,2016年12月公開,https://www.soumu.go.jp/main_content/000456319.pdf(閲覧日:2022年7月7日)
坂内泰子「『やさしい日本語』の普及をめぐって」,『神奈川県立国際言語文化アカデミア』,2巻,2013,p.65-74,https://www.jstage.jst.go.jp/article/academiakiyou/2/0/2_KJ00008406339/_pdf/-char/ja(閲覧日:2022年5月27日)
文化庁「別冊 やさしい日本語書き換え集」,https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/92484001_02.pdf (閲覧日:2022年5月6日)
庵功雄「『やさしい日本語』研究が日本語母語話者にとって持つ意義―『やさしい日本語』は外国人のためだけのものではない―」,『一橋大学国際教育センター紀要』,第6号,2015,p.3-15,
https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/27456/kokusai0000600030.pdf(閲覧日:2022年6月3日)
川村よし子ほか「チュウ太の道具箱」,https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/tools.html#input (閲覧日:2022年5月6日)
川崎市「川崎市〈やさしい日本語〉ガイドライン」,2021年3月24日公表, https://www.city.kawasaki.jp/250/cmsfiles/contents/0000127/127357/yasashii_nihongo.pdf(閲覧日:2022年5月6日)
mercan「日本語話者も英語話者も歩みよる、インクルーシブなコミュニケーション実現のためのメルカリ独自の言語支援施策」,https://mercan.mercari.com/articles/20363/(閲覧日:2022年5月27日)
日本語能力試験「N1~N5:認定の目安」https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html(2022年5月6日最終閲覧)
出入国在留管理庁「令和3年末現在における在留外国人数について」,報道発表資料,2022年3月29日公表,https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00001.html(閲覧日:2022年5月6日)
東京都国際交流委員会「東京都在住外国人向け情報伝達に関するヒアリング調査報告書」,2018年3月公表,https://tabunka.tokyo-tsunagari.or.jp/info/files/a70d5ac7db12bd5c538a3b38f2a01613c262657e.pdf (閲覧日:2022年5月6日)
東京都生活文化スポーツ局「コンビニエンスストアを多文化共生の地域拠点に」,『活用事例の紹介』, https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/chiiki_tabunka/tabunka/tabunkasuishin/files/0000001620/18_sej.pdf(閲覧日:2022年5月27日)
吉開章『入門・やさしい日本語:外国人と日本語で話そう』,アスク出版,2020.
岡山県「やさしい日本語」,2017年11月7日更新,https://www.pref.okayama.jp/page/407495.html(閲覧日:2022年6月23日)

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