技能実習生の問題を検証!トラブル事例と企業ができる対策を解説

「よく耳にする技能実習生にまつわる問題は、不可避なのだろうか?」

技能実習生の受け入れを検討している企業では、このような不安を持っているかもしれません。確かに、技能実習生については失踪や犯罪などさまざまな問題が報道されています。2020年には技能実習生による果物や家畜の大量窃盗がニュースになり[1]、検挙数は統計のある2012年以降最多の2,889人に上りました。[2]

しかし、技能実習生が法を犯す背景にはそれぞれ事情があり、十把一からげに「問題」と捉えることはできません。技能実習生が問題を起こす背景には、制度が抱える矛盾や受け入れ企業側の人権意識が関わっていることもあります。

そのため、トラブルを防ぐためには建設的な視点で技能実習制度の問題点を見極め、適切に制度を運用する必要があるのです。

本稿では、技能実習制度の問題点から、実際のトラブル事例、予防のための対策まで、詳しく解説します。本稿の情報が、企業と技能実習生の信頼関係の構築や、技能実習生と日本人従業員がともに活き活きと働くことのできる環境作りの参考になれば、幸いです。

[1] 朝日新聞,「SNSの画像で浮上した家 家畜盗難の関連先?大量の肉」,『朝日新聞デジタル』,2020年10月26日,https://www.asahi.com/articles/ASNBV6R27NBVUTIL01P.html(閲覧日:2022年1月24日)
安田 峰俊,「『群馬の兄貴』、ひき逃げ、豚解体風呂…ベトナム人不法滞在者のアジトに“突撃7連発”」,『文春オンライン』,https://bunshun.jp/articles/-/43779?page=2(閲覧日:2022年1月24日)
[2] 警察庁,「令和2年における組織犯罪の情勢」,令和3年4月公表,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf(閲覧日:2022年1月24日)
時事通信社「技能実習生の検挙最多 ベトナム人が7割―警察庁」, 『JIJI.COM』,2021年4月8日,https://www.jiji.com/jc/article?k=2021040800479&g=soc(閲覧日:2022年1月24日)

外国人雇用のガイドブック_まなびJAPAN

1. 技能実習生の問題を理解するためのポイント

技能実習生の問題が起きる背景には、制度が抱える矛盾があります。ここでは、技能実習制度の目的と問題について解説します。

1-1. 外国人技能実習制度の目的

外国人技能実習制度の目的は国際貢献と技術移転です。途上国の発展に寄与する人材作りをサポートするための制度で、技能実習生の50%以上をベトナム出身者が占めています[3]

図)技能実習生の出身国別割合

技能実習生の数は、2012年以降年々増加傾向にあり、2019年には過去最高の41万972人を記録しました。2020年以降は減少傾向にありますが、それでも2021年には6月末の時点で35万4,104人の外国人が技能実習生として来日[4]しています。

1-2. 指摘されている制度上の課題

技能実習制度は、技能実習生の送り出し国と日本側の間に悪質な仲介業者が介在しやすいという構造上の課題があります。仲介業者から渡航費を徴収され、多額の借金を背負って来日する技能実習生もいます。

また、原則として職業移転の自由が認められていないのも課題の一つです。企業側に違反行為があったり経営状況が悪化したりした場合は転職を認められますが、それ以外であれば一度入社した企業で働き続けるのが一般的です。

技能実習生が企業側に直接抗議するのは事実上困難なため、低賃金・長時間労働などの違反行為があっても働き続けるケースが少なくないでしょう。

このように技能実習制度は外国人労働者が弱い立場に置かれやすい仕組みになっているため、米国務省は「外国人労働者を不当に扱う手段として制度が悪用される恐れがある」として、監視の強化を促しています。

[3] 法務省・厚生労働省「外国人技能実習制度について」,令和3年10月28日改訂版,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005177.pdf(閲覧日:2022年1月11日)
[4] 法務省・厚生労働省「外国人技能実習制度について」,令和3年10月28日改訂版,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005177.pdf(閲覧日:2022年1月11日)

2. 技能実習生に問題はあるのか?

ここまで、制度上の課題について解説してきましたが、「技能実習生自身にも問題があるのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれません。ここでは、よく報道される技能実習生の問題とその原因について考えていきましょう。

2-1. よく報道される問題

ここでは、技能実習生の問題行動としてよく報道される失踪と犯罪について解説します。

(1)失踪

2020年の技能実習生の失踪者は5,885人と発表[5]されています。失踪者の中でも多いのがベトナム出身の技能実習生で、次に中国、カンボジアと続きます[6]

(2)犯罪

技能実習生の中には犯罪に手を染めてしまう人も存在します。2019年の来日外国人の検挙件数は1万7,260件に上り、このうちの18.0%が技能実習生による犯罪[7]です。最も検挙率が高いのはベトナム人で、次に中国人が続きます。

中でも多い犯罪が万引きといった窃盗です。肉や果物、日本製の化粧品などを大量窃盗して転売するケースも摘発されています。また、SNSでの知人からの誘いや犯罪組織の甘い言葉がきっかけで、犯罪に加担する場合もあります。

2-2. 原因の多くは技能実習生が抱える来日前の借金

前述の通り、技能実習生は来日前に多額の借金を負うことが多く、返済に困って失踪したり犯罪に手を染めたりするケースが大半です。

事実、2019年の法務省の調査によると、失踪した技能実習生の約7割が最低賃金未満で働いたことが分かっています。他に失踪動機として暴力やパワハラなどを挙げている技能実習生もおり、受け入れ企業側による不正行為が原因の多数を占める[8]のではないかと指摘されています。

受け入れ企業の中には、契約通りの賃金を支払わなかったり、「強制帰国」を盾にして労働条件の改善を訴えられないようにしたりするところも存在します。借金を返済するためには、過酷な職場から失踪して不法滞在になってでも日本で働き続けるしかないのです。(実際には、本人の意思に反して強制帰国を強要する権限は企業にはありません)

低賃金が原因で借金返済のために犯罪に手を染める技能実習生も少なくありません。大量窃盗が多発した時期が新型コロナウイルスの感染拡大と重なることから、コロナ禍の影響で給与削減や解雇などの憂き目に遭い、生きるために犯罪に走った人も多いと推測されます。

それではなぜ苦しい思いをしてまで技能実習生は借金をするのでしょうか?それは「日本なら楽な暮らしができる」「借金も返せる」という仲介業者の言葉を信じているからです。

しかし、受け入れ企業が約束通りの労働条件で迎えてくれるとは限りませんし、悪質な企業に当たっても我慢して働き続けるしかありません。前述の通り、技能実習生には転職の自由が認められていないため、計画通り借金を返せるかどうかは運次第なのが現状です。

2-3. 技能実習生の問題行動を防ぐために企業側ができること

技能実習生が多額の借金を抱える背景には「送り出し機関→監理団体→受け入れ企業」という受け入れまでの過程で何らかの違法行為があると考えられます。監理団体の中には送り出し機関に接待を強要したり、技能実習生が失踪した場合の費用を保証金として借金に上乗せしたりするところもあるのです。

これから技能実習制度を利用する企業は、こうした状況が存在することを知っておく必要があるでしょう。現状を変えるためには、企業側が信頼できる監理団体を通して技能実習生を受け入れ、長期的にルートを健全化していくことが求められます。

報道にあるような技能実習生の問題の背景には、やむを得ぬ事情が隠れていることが大半です。技能実習生の問題を防ぐためには、原因を理解して同じ過ちを自社で起こさないよう対策するしかありません。

足りない労働力の供給源として技能実習制度を利用したいと考えていた場合は、制度の概要と運用方法を正しく理解し、目的を再考することが求められます。

[5]出入国在留管理庁「技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和3年上半期)」, https://www.moj.go.jp/isa/content/001362001.pdf(閲覧日:2022年1月10日)
[6] 出入国在留管理庁「技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和3年上半期)」, https://www.moj.go.jp/isa/content/001362001.pdf(閲覧日:2022年1月10日)
[7] SDA「令和元年の来日外国人犯罪の検挙事例」,2020年5月公表,https://sda1.sakura.ne.jp/2kaigi/5gatubeshi2.pdf(閲覧日:2022年1月10日)
[8] 法務省,「調査・検討結果報告書」,平成31年3月28日公表,https://www.moj.go.jp/isa/content/930004167.pdf(閲覧日:2022年1月24日)

3. 技能実習生を受け入れる企業側の問題は?

技能実習制度は国際貢献と技術移転を目的としていますが、受け入れ企業の中には安い労働力を確保するルートとして悪用するところが少なくありません。

3-1. 受け入れ企業の70%以上が法令違反!

違反事業者の数が年々増加傾向にあり、2019年の労働基準監督機関の調査では監督指導した9,455件の企業のうち、6,796件で法令違反が見つかりました。違反率は71.9%と圧倒的な数字です[9]

図)違反事業場数

ただし、違反事業者数には日本人労働者に対する違反も含まれるため、全てが実習生に対する違反行為というわけではありません。しかし、技能実習生の増加とともに違反事業者数も増えていることから、一定数の企業が劣悪な環境で実習生を働かせていると推測できます。

3-2. 法令違反の代表例

ここでは法令違反の代表例を見ていきましょう。

(1)労働時間

違反行為の中でも多いのが、長時間労働やタイムカードの改ざんといった労働時間の事例です。実習生は講習を終えて実習に入れば受け入れ企業が雇用する労働者になるため、労働関係法令が適用されます。

労働基準法では「法定労働時間は1日8時間・週40時間以内」「時間外労働は月45時間・年360時間以内」が原則と定められています。しかし、中には月100時間以上の残業を実習生に強制したり、勤務記録を改竄して時間外労働を記録しなかったりするところも存在します。

(2)安全基準、労災隠し

実習生を危険な環境で働かせる安全基準の違反例も多いです。具体的には、「爆発や発火などの危険を防止する措置を取らない」「換気や採光、休養といった健康のために必要な措置を取らない」などが挙げられます。

安全管理を怠る業者の中には、実習生が仕事中に負ったケガに対して労災を認めないところもあります。労働基準監督署からの是正勧告を恐れ、「自宅でけがをしたことにしろ」と実習生に強要する業者もいるようです。

(3) 低賃金、残業代の未払い

「最低賃金以下の賃金の支払い」「残業代の未払い」といった賃金に関する違反事例も多いです。具体的には、「フルタイム勤務なのに月給が6万円以下」「残業代が1時間400円しか支払われない」などが挙げられます。

悪質な業者は「時給900円、時間外労働は300円」といった違法な雇用契約書を入国前の実習生と結び、契約通りの賃金しか支払わない可能性もあります。実習生と合意があったとしても労働基準法違反になるので、当然規定の賃金の支払いが必要です。

(4)セクハラ

違反事例の中には実習生の体を触ったり、性行為を強要したりするセクハラ行為も報告されています。実習生が日本語に不自由なことを利用して「卑猥な言葉を浴びせる」「卑猥な日本語を言わせる」といった行為もセクハラに該当します。

技能実習生が会社の寮に住んでいる場合、職場だけでなくプライベートの場でもセクハラ被害に遭うことが少なくありません。セクハラは証拠が残りにくく問題が顕在化しにくいため、実際には報告事例よりも多くの被害が発生していると考えられます。

(5)パワハラ

違反行為としては、暴行や暴言、脅迫といったパワハラ行為も挙げられます。「言葉が通じないから体で指導する」と殴る蹴るの暴行を加えたり、人種差別的な言葉を浴びせたりする事例が確認されています。

悪質な業者は実習生のパスポートや在留カードを取り上げ、実質的に強制労働させるところもあります。また、「強制帰国させるぞ」と脅迫し、劣悪な環境で実習生を働かせる企業も存在します。

[9] 厚生労働省「外国人技能実習生の実習実施者に対する平成31年・令和元年の監督指導、送検等の状況」,令和2年10月9日公表,https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000680646.pdf(閲覧日:2022年1月10日)

4. 受け入れ企業が問題を起こす理由

受け入れ企業側が問題を起こす理由として、「技能実習生=安い労働力」と見なす人権意識の欠如が挙げられます。当然のことながら技能実習生は人権の主体となる個人で、企業側は労働者である技能実習生を守る義務があります。

出入国関係法令や労働関係法令などが適用されるため、正しく雇用しなければ違反事業者として摘発される可能性が高いでしょう。これから技能実習生の受け入れを検討している企業は、違反行為が横行する原因を把握し、同じ轍を踏まないよう社内体制を整える必要があります。

ここでは、受け入れ企業側が問題を起こす理由である「建前と実態のかい離」「仲介業者の介在」について詳しく見ていきます。

(1)建前と実態のかい離

技能実習制度は国際貢献と技術移転を目的としていますが、外国人労働者を低賃金で雇用するルートとして悪用する企業が後を絶ちません。というのも技能実習生の受け入れ企業は第一次・第二次産業がメインで、多くが重労働・低賃金というイメージから日本人労働者が集まらない傾向にあります[10]

図)職業別技能実習生受け入れ割合

企業側が国内の足りない労働力を埋めるために技能実習制度を利用していれば、技能実習生に頼らなくては事業を継続できなくなってしまいます。

このような企業は技能実習生を安い労働力として扱うため、低賃金・長時間労働といった劣悪な環境で働かせる傾向があります。労働環境の悪化が進めばますます日本人労働者が離れていくので、「安く安定した労働力の供給源」として技能実習制度に依存するしかなくなってくるのです。

ただし、親事業者から不公平な取引条件を強いられるといった事情で違反行為を犯す企業も存在します。「最低賃金が上がっているのに取引対価が上がらない」「エネルギーコストが上がっても対価が引き上げられない」などの理由から、適正な賃金を技能実習生に支払えないのです。

そのため、各業界がサプライチェーン全体で取引適正化を目指さなくては、技能実習生への違反事例をなくすのは難しいといえるでしょう。

(2)仲介業者の介在

技能実習生の受け入れ方法は大企業が現地の人を直接雇用する「企業単独型」と、中小企業が仲介業者を通して受け入れる「団体監理型」の2パターンがあり、ほとんどの企業が団体監理型で受け入れています。2021年の調査では全体の98.5%が団体監理型で受け入れ[11]ているため、受け入れ企業のほとんどが第一次・第二次産業の中小企業といえるでしょう。

団体監理型で課題とされているのは、技能実習生を本国から送り出す「送り出し機関」と、技能実習生を日本側で受け入れる「監理団体」の2つの業者が介在する点です。

どちらも人材事業者で仲介手数料がかかるため、受け入れ企業の中にはかかった手数料の分技能実習生に支払う賃金を削るところもあります。このことから、仲介手数料は低賃金・残業代の未払いなどが起こる要因の一つと考えられます。

本来ならば企業単独型で受け入れるのが望ましいですが、海外とのつながりが無い中小企業が現地で直接採用するのは簡単ではないでしょう。そのため、日本政府が受け入れ企業と技能実習生の間に立って仲介し、仲介業者を除外することが理想ですが、今の制度では難しいのが現実です。

[10] 法務省・厚生労働省「外国人技能実習制度について」,令和3年10月28日改訂版,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005177.pdf(閲覧日:2022年1月27日)
[11] 法務省・厚生労働省「外国人技能実習制度について」,令和3年10月28日改訂版,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005177.pdf(閲覧日:2022年1月27日)

5. 国と民間が一体になって進めている、技能実習生問題の解決に向けた動き

技能実習制度は違反事業者が横行しやすい構造になっていますが、近年国と民間が一体になって違反事業者の撲滅を目指しています。

世界各国で人材不足が進む今、外国人労働者の確保は競争の時代です。現在のように安い労働力として都合良く利用していれば、日本はいずれ外国人労働者に「選ばれる国」から「選ばれない国」に転落してしまいます。

日本なら安心して働ける」と国際社会からの信用を得るためには、外国人労働者の人権を保護し、労働・生活環境を改善しなくてはいけません。

ここでは、「技能実習法の成立」「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム設立」という2つの動きを説明します。

5-1. 技能実習法の成立で監督が強化

技能実習を適正に推進するために、2017年11月に「技能実習法」(正式名称は「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」)が施行されました[12]。取締機関として「外国人技能実習機構」が設立され、監理団体や実習実施者(受け入れ企業)への監督が強化されています。

監理団体は許可制、実習実施者は届け出制になり、実習実施者は技能実習生一人ごとに「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構の認定を受けることが義務付けられました。違反があった場合や認定の基準を満たさなくなった場合、外国人技能実習機構の改善命令に従わなければ監理団体・実習実施者の認定は取り消されます。

また、技能実習生に対する人権侵害行為には罰則が設けられ、技能実習生からの不正の申告も可能になりました。さらに、日本と技能実習生の送り出し国で取り決めを作成し、2カ国間で協力して不適切な送り出し機関を排除することも目指しています。

5-2. 責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム設立

外国人労働者問題を根本から解決するために、2020年11月には国際協力機構(JICA)主導のもと「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」が設立しました[13]

JP-MIRAIには民間企業や地方自治体、弁護士など立場の異なるステークホルダーが参加しており、トヨタ自動車株式会社や株式会社セブン&アイ・ホールディングスといった業界をリードする企業も加わっています。

主な活動は、「外国人労働者にヒアリングして課題を把握」「適切な受け入れについての会員同士の相互学習」「国内外の公的機関・政府機関との連携による解決策の検討」などです。
JP-MIRAIは活動内容を国内外に発信し、日本の労働市場の信頼を高めることを目指しています。

JP-MIRAIの活動理念が参加企業団体だけでなくサプライチェーン全体に広がることで、社会全体に前向きな影響を与えることが期待されます。

なお、弊社もJP-MIRAIに加入しており、安心・安全な労働環境や雇用環境の創出を目指しています。外国人材に向けては母国語のeラーニング教材を無償で提供しており、日本の法令や制度、文化などを幅広く学習することが可能です。

一方、受け入れ企業側には外国人材採用に関する最新の知識をeラーニングで提供しており、法令はもちろん採用の流れやキャリア構築などの具体的な内容を学習することができます。

参考)ライトワークスのeラーニング教材「外国人材採用企業向けシリーズ」
https://content.lightworks.co.jp/contents/material/posts/introduction/

[12] 出入国在留管理庁,「外国人技能実習制度について」,『出入国在留管理庁』,https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri05_00014.html(閲覧日:2022年1月27日)
[13] 独立行政法人国際協力機構,「『責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム』の設立について」,『独立行政法人国際協力機構』,https://www.jica.go.jp/press/2020/20201016_20.html

6. 技能実習生の受け入れ企業側が取り組むべきこと

これから技能実習生を受け入れる企業は、従業員の人権意識を高め、技能実習生が働きやすい環境を整える必要があります。

技能実習生への違反行為が発覚した場合、実習認定が取り消され企業名と取り消し理由が外国人技能実習機構の公式サイトに掲載されます。認定を取り消されれば、企業イメージが失墜することは免れません。

技能実習生の問題を防ぐためには、受け入れ企業側が制度の内容や運用の方針を理解し、法令を遵守した上でトラブルが起きたときの対処法を考えておく必要があります。
ここでは、「コンプライアンス体制を整える」「日本人の従業員を教育する」「技能実習生が相談しやすい環境を作る」という3つの準備について解説します。

6-1. コンプライアンスの体制を整える

技能実習生を受け入れる前に、コンプライアンスに取り組むための専門的な部署を設けましょう。技能実習制度の概要や順守すべき法令を理解した上で、従業員が共通して認識すべき基準を定めます。

全従業員が意識を共有できるよう、コンプライアンス関連文書は誰もが確認できる状態で管理してください。外国人労働者ならではの問題に対応できるよう、社内規定や人事制度の見直しも必要です。

コンプライアンスマニュアルを確実に実行できるよう、日常的にモニタリングできる仕組み作りも求められます。内部通報窓口を設置して、社内で違反行為を吸い上げられるようにするのがおすすめです。

この際は違反者に対する処分を検討するのはもちろんのこと、通報者のプライバシーや立場を保護した上で全従業員に通知する仕組みを作ることも必要不可欠です。

6-2. 日本人の従業員を教育する

コンプライアンスマニュアルを作成したら、日本人従業員への教育を行いましょう。従業員によっては技能実習生の受け入れに抵抗を覚える人もいるので、「なぜ受け入れるのか」「どのような法令が適用されるのか」を周知しておくことが大切です。

技能実習生に対して前向きなイメージが持てるよう、全従業員の不安をヒアリングしコンプライアンス教育を施してください。技能実習生の受け入れに成功した企業をモデルケースとして紹介するのも一つの手です。

技能実習生の出身国の文化や風習を学び、日本との相違点を共有しておくことも求められます。例えば、宗教によっては独自の食生活やお祈りの習慣があり、相手の宗教観を尊重した配慮が必要です。

異文化を理解し尊重する土壌ができれば、技能実習生だけでなく日本人従業員にとっても働きやすい職場になるでしょう。

6-3. 技能実習生が相談しやすい環境をつくる

技能実習生が困ったときに相談できるよう、社内に相談窓口を作っておきましょう。「語学が堪能な人」や「相手を尊重し公平な立場で話を聞ける人」が望ましいです。問題が起きたときにスムーズに対応できるよう、適切な措置を決めておくことも求められます。

外国人技能実習機構や都道府県労働局の外国人労働者相談コーナーなど、社外の相談窓口を伝えておくのも大切です。これらの窓口は母国語での対応も可能なので、言葉が分からない技能実習生にとって安心できる存在になります。

技能実習生・監理団体・受け入れ企業で三者面談の機会を設けるのも一つの手です。言葉が通じないことで苦しむ技能実習生が多いので、面談の際は母国語が話せる人に参加してもらいましょう。

技能実習生と日本人従業員がコミュニケーションを取れるよう、ランチ会や誕生日会などの社内イベントを用意するのもおすすめです。社内交流が深まれば技能実習生の孤立を防ぐことができ、お互いの文化を学ぶチャンスにもなります。

スムーズなコミュニケーションは作業の効率化にもつながるので、役職や年齢などの垣根を取り払って、意見を直接交換できる場を設けるとよいでしょう。

また、技能実習生の多くはSNSを使って同胞とコミュニケーションを取っているので、甘い話に乗らないよう注意喚起することも求められます。中には犯罪と知らずにアルバイト感覚で手を貸してしまうこともあるので、「ネット犯罪の代表的な例」「加担した場合どのような処罰を受けるか」を説明しておくとよいでしょう。

7. まとめ

技能実習制度は、国際貢献のため途上国に日本の技術を移転する制度ですが、安い労働力の供給源として利用されているのが実態です。受け入れ企業側の法令違反は年々増加傾向にあり、中でも多いのが長時間労働です。受け入れ企業によっては、残業代400円で月100時間以上の残業をさせるところもあります。

問題が起きる背景には、技能実習制度の抱える構造上の課題があります。技能実習生は「母国の送り出し機関・日本の監理団体」を通して企業に配属されるのが一般的なため、2つの仲介業者による手数料が発生します。手数料の元を取るために、企業側は長時間労働・低賃金など劣悪な環境で技能実習生を働かせるのです。

また、技能実習生の多くは日本への渡航費の名目で100万円以上の借金を抱えて来日するため、過酷な現場でも耐えるしかないという現実があります。借金返済のために失踪したり、窃盗のような罪を犯したりする実習生も少なくありません。

技能実習生は「日本で技術を学びたい」「日本で稼いで家族を助けたい」といった高い目標を持って来日します。しかし、目標が叶うかどうかは運次第なのが現状で、悪質な企業に当たってしまえば理想と掛け離れた過酷な労働環境が待っています。

このような問題を解決するため、2017年に技能実習法が施行され、外国人技能実習機構により監理団体や受け入れ企業への取締が強化されることになりました。2020年には「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」が設立し、民間企業や弁護士などさまざまな立場の人々が協力して外国人労働者の人権保護を目指しています。

技能実習生への違反行為を減らすためには、国や民間の共同活動に任せるだけでなく、各企業の努力も必要です。これから技能実習生の受け入れを検討する企業は、技能実習制度の概要と正しい運用方法を把握し、技能実習生が働きやすい環境を整えましょう。

具体的には社内の「コンプライアンスの体制を整える」「日本人の従業員を教育する」「技能実習生が相談しやすい環境を作る」という3つの準備が必要です。

コンプライアンスに取り組む専門部署を設け、出入国関係法令や労働関係法令など技能実習制度に関係する法令を理解した上でコンプライアンスマニュアルを作りましょう。日本人従業員の中には技能実習生の導入に不安を覚える人もいるので、全従業員に導入の目的を周知し、コンプライアンス教育を施すことも重要です。

また、技能実習生が一人で悩みを抱え込まないよう、日本人従業員と交流する機会を作って悩みを打ち明けやすい環境を整えることも求められます。

それぞれの違いが尊重され協働できる風土が実現すれば、技能実習生だけでなく日本人従業員にとっても働きやすい企業になります。

日本人が外国で働く場合も、人権が守られた労働環境で働きたいはずです。これから技能実習生の受け入れを検討している企業は、技能実習制度が抱える問題を直視し、一人一人を個人として尊重する姿勢が求められます。

外国人雇用のガイドブック_まなびJAPAN

参考)
NEXT MOBILITY編集部,「トヨタ、『責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム』に参画」,『NEXT MOBILITY』https://www.nextmobility.jp/economy_society/toyota-participates-in-responsible-foreign-worker-acceptance-platform20201016/(閲覧日:2022年1月27日)
ベリーベスト法律事務所金沢オフィス,「実習先とのトラブルが頻発! 外国人技能実習制度の問題点と解決方法とは?」,『ベリーベスト法律事務所金沢オフィス』 https://kanazawa.vbest.jp/columns/work/g_other/1207/(閲覧日:2022年1月27日)
株式会社アスカ,「技能実習生問題の解決策はあるのか?【実態・トラブル事例】」,『グローバル採用ナビ』,https://global-saiyou.com/column/view/solution(閲覧日:2022年1月27日)
榑松佐一,「特集外国人労働者との共生を目指して 相談の現場から見た技能実習生問題の実態と課題」,2018年10月15日,https://www.zenroren.gr.jp/jp/koukoku/2018/data/259_02.pdf(閲覧日:2022年1月27日)
ヤフー株式会社,「米、日本の技能実習を問題視 国務省が人身売買報告書」, 『Yahoo!ニュース』,2021年7月2日,https://news.yahoo.co.jp/articles/9890937f0673f003c5d532a6b500b21da0ad9aa5(閲覧日:2022年1月27日)
望月優大,「法令違反が7割超、ブラック企業を次々に生み出す技能実習制度の構造」,『現代ビジネス』,2019年6月28日,https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65550(閲覧日:2022年1月27日)
朝日新聞社,「技能実習制度の廃止を訴える指宿昭一氏「ゼノフォビア(外国人嫌悪)の根源は政府」」,『GLOBE+』,2021年10月11日,https://globe.asahi.com/article/14458240(閲覧日:2022年1月27日)
多田文明,「【追記】めぐりめぐりて、我が身に被害。外国人よる犯罪が、身近に迫る。帰国困難者を犯罪へとかり立てる。」,『Yahoo!ニュース』,2021年3月20日,https://news.yahoo.co.jp/byline/tadafumiaki/20210320-00228267(閲覧日:2022年1月27日)
NHK,「届かないSOS 外国人労働者への性暴力【vol.119】」,『NHK』,2021年3月19日,https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0014/topic045.html(閲覧日:2022年1月27日)
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出井康博,「コロナ禍が生む「嫌日外国人」SNSにあふれる勧誘 ベトナム人を犯罪に引き込む厳しい現実」,『日刊ゲンダイDIGITAL』,2020年7月10日,https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/275772(閲覧日:2022年1月27日)
公益財団法人国際人材協力機構,「【技能実習生への注意喚起のお願い】失踪・ネット犯罪の防止について」,『JITCO』,2016年12月14日,https://www.jitco.or.jp/stop/shissou.html(閲覧日:2022年1月27日)
秋田労働局,「平成 30 年度「外国人雇用管理セミナー」外国人労働者の労働条件管理について」,2019年3月12日,https://jsite.mhlw.go.jp/akita-roudoukyoku/content/contents/000402308.pdf(閲覧日:2022年1月27日)
中日新聞,「ベトナム人犯罪が倍増 コロナ禍で生活苦」,『中日新聞』,2021年3月31日,
https://www.chunichi.co.jp/article/227742(閲覧日:2022年1月24日)technical-intern-trainee-problem
西村裕一,「技能実習生の受入先で起こっている労働問題」,『弁護士による労働相談弁護士デイライト法律事務所』,2020年1月20日,https://www.fukuoka-roumu.jp/column/10078/(閲覧日:2022年1月27日)
繊維産業技能実習事業協議会,「『繊維産業における外国人技能実習の適正な実施等のための取組』について」, 平成30年6月19日,https://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180619003/20180619003-1.pdf(閲覧日:2022年1月27日)
リードプラス株式会社,「コンプライアンス管理体制の作り方」,『クラウドERP実践ポータル』,https://www.clouderp.jp/blog/create-compliance-management-system(閲覧日:2022年1月27日)
株式会社あしたのチーム,「コンプライアンス体制を整えるには?基本的な考え方と戦略」,『あしたの人事オンライン』,2019年8月19日,https://www.ashita-team.com/jinji-online/organization/6115(閲覧日:2022年1月27日)
出入国在留管理庁,「報告書『今後の出入国在留管理行政の在り方』」,令和2年12月,https://www.moj.go.jp/isa/content/001334958.pdf(閲覧日:2022年1月27日)

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