「外国人労働者=犯罪」は思い込み?統計データから見える事実とは

「外国人労働者=トラブルを生むというイメージがどうしても拭えず、困っている」

このように感じている方は少なくないのではないでしょうか。外国人だから犯罪を起こすという考え方が偏見だとは分かっていても、それを覆す材料が自分の中になく、結局印象は変えられないままです。これを繰り返していては、日本社会は変われません。

少子高齢化が進む今、外国人労働者の数は増加傾向にありコンビニや飲食店などで働く姿が自然な光景になりました。少子高齢化で日本人の働き手が減る今、外国人労働者の活躍なくしてはこれからの日本経済は成り立ちません。

もはや社会の一員として認識されつつありますが、犯罪といったネガティブなイメージがあることから、雇用に踏み出せない企業も多いのではないでしょうか。

事実、日本労働組合総連合会が行った2018年の調査によると、「外国人住民が増えることを良くないことだと思う理由」のうち、54.9%の人が「地域の環境(治安など)にマイナスの影響があると思うから」と答えています[1]

その他の理由は、57.8%が「文化・習慣の違いがあるから」、37.1%が「外国人住民が増えることに漠然とした不安を感じるから」などです。

このことから、多くの人が「外国人=日本人と常識が異なる」という先入観を持っており、自分たちの生活に悪影響を及ぼさないか不安に思っていると推測できます。先入観を払拭するためには、外国人労働者を正しく理解してイメージを調整することが大切です。

本稿では、外国人労働者は本当に犯罪に走りやすいのか、という疑問について統計データを使って解説していきます。犯罪の背景や日本側の責任、外国人労働者を雇用する前の注意点についても解説するので、ぜひ参考にしてください。

[1] 労働組合総連合会「外国人労働者の受入れに関する意識調査2018」,2018年10月18日公表,p13,https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20181018-02.pdf?41(閲覧日:2022年4月14日)

外国人雇用のガイドブック_まなびJAPAN

1. 外国人労働者の犯罪、実はそんなに増えていない?

「外国人労働者が増えると治安が悪化する」というイメージがありますが、実は来日外国人の数と犯罪率は比例していません。

2018年の警視庁の調査結果を見ていきましょう。

検挙件数、検挙人員ともに2020年がピークで、近年はほぼ横ばい傾向[2]です。

それでは、外国人労働者の数も近年は横ばいなのでしょうか?外国人労働者の数と検挙状況の推移を見比べてみましょう。

外国人労働者の数は年々右肩上がりに増加[3]していますが、外国人犯罪の検挙数は必ずしも比例していません。

それどころか外国人労働者の前年増加率が最も高かった2016年には、検挙件数・検挙人員ともに減少さえしています。

このようなことから、「外国人労働者が増えると治安が悪化する」「犯罪が増える」というイメージは先入観に過ぎないといえるでしょう。

1-1. 外国人労働者による犯罪の検挙状況

2020年に検挙された来日外国人1万1,756人ののうち、61.0%を正規滞在が、39.0%を不法滞在が占めています[4]

ここでは、正規滞在の外国人労働者における在留資格別の検挙状況を見ていきましょう。

最も検挙人員が多いのが技能実習で、次に留学が続きます[5]

留学生の就労は基本的には認められていませんが、入国管理局から「資格外活動の許可」をもらえば週28時間以内といった一定の範囲内で働くことが可能です。

なお、外国人労働者の犯罪はグループで組織的に行われる傾向があり、近年は不法就労の斡旋や偽造在留カードの密売、大量万引きなどが摘発例として目立っています。

1-2. 国籍別の検挙状況

外国人労働者の犯罪は技能実習生や留学生によるものが多いですが、国籍にも偏りがあります。2020年の国籍別検挙状況を見ていきましょう。

最も検挙人員が多いのはベトナム人で、2位の中国と合わせて全体の50%以上を占めます[6]

2020年の調査では、外国人労働者172万4,328人のうち、1位をベトナム(44万3,998人)、2位を中国(41万9,431人)が占める[7]ことから、そもそもの母数の多さが検挙率の高さに影響しているといえるでしょう。

特にベトナム人労働者の数は年々増加傾向にあり、その多くが技能実習生です。

前述の通り検挙人員数1位の在留資格が技能実習であることから、ベトナム人技能実習生の背景に何らかの課題があることが推測されます。

[2] 警視庁「2 来日外国人犯罪の検挙状況」,『令和3年版警察白書』,2021年7月26日公表,https://www.npa.go.jp/hakusyo/r03/honbun/html/x3332000.html(閲覧日:2022年4月14日)
[3] 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ【本文】(令和2年10月末現在)」,2022年1月28日公表,p3,https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000729116.pdf(閲覧日:2022年4月14日)
[4] 警視庁組織犯罪対策部「令和2年における組織犯罪の情勢」,2021年4月公表,p70,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf(閲覧日:2022年4月14日)
[5] 警視庁組織犯罪対策部「令和2年における組織犯罪の情勢」,2021年4月公表,p65,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf(閲覧日:2022年4月14日)
[6] 警視庁組織犯罪対策部「令和2年における組織犯罪の情勢」,2021年4月公表, p67,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf
[7] 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ【本文】(令和2年10月末現在)」,2022年1月28日公表,p5,https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000729116.pdf(閲覧日:2022年4月14日)

2. 外国人労働者の犯罪でベトナム人が目立つのは技能実習制度のせい

技能実習生の数は年々増加傾向にあり、中でも突出しているのがベトナム人です。

ベトナム人技能実習生の占める割合は全体の50%以上[8]と、圧倒的な数字です。

かつては「技能実習生=中国」というイメージがありましたが、中国の経済発展が進んだ今、中国人技能実習生の数は減少傾向にあります。その欠員を埋めるために需要が高まった結果、ベトナム人技能実習生が増加するようになったのです。

ベトナム人が日本での技能実習を希望する背景には、「賃金の高さ」の他「日系企業が多く親しみがある」「日本のアニメや音楽などが浸透している」ことから、親日家が多いことも関係しています。

また、ベトナム人技能実習生が増えることは、ベトナム政府にとっては外貨獲得のチャンスです。ベトナム人技能実習生は母国の家族に仕送りすることが一般的で、ベトナム経済を支える柱の一つとなっています。

そのため、ベトナム政府は国を挙げて労働者の送り出しを推奨しており、ベトナム人技能実習生の増加につながっているのです。

2-1. 統計データでも明らかに多いベトナム人による犯罪

ベトナム人の刑法犯は窃盗犯が多く、特に多いのが万引きによる検挙です。実際に2020年の来日外国人犯罪による万引きの検挙件数を見てみると、6割強をベトナム人が占めています[9]

ベトナム人刑法犯のうち、最も検挙率が高いのも窃盗犯です。しかし、2016年には70%強だった割合が2020年には60%弱になっているため、やや減少傾向にある[10]といえるでしょう。

また、ベトナム人は特別法犯の検挙人員も多く、特に目立つのが入管法違反[11]です。

2020年の調査では、ベトナム人特別法犯2,724人のうち85.6%が入管法違反による検挙です。

入管法違反はここ5年で約4.1倍と急増し、中でも不法残留が多い傾向にあります[12]

ベトナム人不法残留者のうち5割以上は技能実習で来日[13]しているため、何らかの事情があって実習先を抜け出し、失踪した技能実習生がベトナム人の検挙人員増加に影響しているといえるでしょう。

2-2. ベトナム人技能実習生の犯罪が多い理由

ベトナム人技能実習生が犯罪に走る背景には、「来日前に背負う借金」「仲介業者による搾取」「コロナ禍による影響」という3つの事情があります。

日本企業が関わる問題でもあるので、それぞれの事情を確認しておきましょう。

2-2-1. 来日前に背負った100万円以上の借金

技能実習生は日本への渡航費として、100万円以上の費用を送り出し機関から請求されるケースが少なくありません。そのため、借金を負って来日する人が大半です。

ベトナム政府は送り出し機関が技能実習生から徴収できる金額を3,600ドル(約38万円)までと定めていますが、現状ほとんど守られていません。

それどころか、日本の監理団体への接待費用やキックバックを借金に上乗せする送り出し機関も存在します。

なぜこのような負担を負ってでも来日するかというと、日本で働けば借金を返せると彼らが信じているからです。

しかし、受け入れ企業の中には最低賃金以下の給料しか支払わなかったり、暴力や暴言で言いなり同然に技能実習生を働かせたりするところも存在します。

技能実習生には転職の自由が基本的には認められていないため、環境を変えるためには失踪するしかありません。

結果として借金返済のために不法残留で働いたり、万引きといった犯罪に手を染めたりすることにつながります。

2-2-2. 仲介業者による搾取

技能実習生の受け入れはベトナム側の「送り出し機関」と日本側の「監理団体」の2社を通すのが一般的ですが、どちらも民間の人材事業者のため手数料が発生します。

受け入れ企業は月3~5万円の管理費を監理団体に支払うため、その分技能実習生に支払う賃金を削り込むところもあります。

結果として長時間労働・低賃金・残業代の未払いなどが横行し、技能実習生が失踪する原因になっているのです。

2-2-3. コロナ禍による影響

コロナ禍で仕事を失い、犯罪に手を染める技能実習生も少なくありません。中にはコロナ禍で残業がなくなり、収入が激減したことで失踪するケースも見受けられます。不法残留しても就業先は簡単には見つけられないため、結果として万引きといった犯罪に手を染めてしまうのです。

コロナ禍の影響を受けるのは技能実習生だけでなく、出稼ぎ目的の留学生も含まれます。

留学生は留学斡旋の手数料や学費を借金しており、飲食店や肉体労働などのアルバイトで返済している人が大半です。アルバイト先の仕事がコロナ禍で激減した結果、困窮した留学生が犯罪に走るケースも報告されています。

[8] 外国人技能実習機構「令和2年度外国人技能実習機構業務統計 概要」,2021年10月1日公表,p4,https://www.otit.go.jp/files/user/toukei/211001-00.pdf(閲覧日:2022年4月14日)
[9] 警視庁「来日外国人犯罪の検挙状況」,『令和3年版警察白書』,2021年7月26日公表,https://www.npa.go.jp/hakusyo/r03/honbun/html/x3332000.html(閲覧日:2022年4月14日)
[10] 警視庁組織犯罪対策部「令和2年における組織犯罪の情勢【確定値版】」,2021年4月公表,p72,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf(閲覧日:2022年4月14日)
[11] 法務省「令和2年における入管法違反事件について(速報値)」,2021年3月31日公表,p2,https://www.moj.go.jp/isa/content/001344820.pdf(閲覧日:2022年5月6日)
[12] 警視庁組織犯罪対策部「令和2年における組織犯罪の情勢【確定値版】」,2021年4月公表,p72,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf(閲覧日:2022年4月14日)
[13] 法務省「出入国在留管理をめぐる近年の状況」,『2020年版「出入国在留管理」日本語版』,p43,https://www.moj.go.jp/isa/content/001335866.pdf(閲覧日:2022年4月14日)

3. 外国人労働者の犯罪について、採用企業の担当者として知っておきたいこと

このように外国人労働者が犯罪に走る背景には、個人の資質というよりも受け入れまでの過程や受け入れ後の対応に問題があるケースが大半です。

自社で違反行為が行なわれないよう、受け入れ企業側の責任やトラブルを予防する方法をチェックしておきましょう。

3-1. 外国人労働者の犯罪に関する日本企業側の責任とは

外国人労働者は生きるために犯罪に手を染めるケースが大半のため、過酷な労働条件で彼らを酷使してきた企業側には一定の責任があります。

日本企業の中には「国際貢献」「技術移転」を建前に、安い労働力の供給源として技能実習制度を利用するところが少なくありません。

ひどいところでは、「上司に逆らってはいけない」「職場以外の人と連絡してはいけない」「労働組合に加入してはならない」など、人権侵害ともいえるルールを強制することもあります。

このように外国人労働者を言いなり同然に働かせてきたツケが、失踪や窃盗などの犯罪として現れているのです。

当然のことながら日本で働く外国人労働者には日本の労働関連法が適用されますし、日本人従業員と同様に人権を尊重しなくてはなりません。

外国人労働者を使い捨てのように扱っていれば、外国人労働者だけでなく日本人従業員もいずれ離れていってしまいます。

違反事例が明るみに出れば企業イメージの失墜は免れないので、これからの社会を生き抜くためにも企業側には人権意識を持って外国人労働者を雇用する責任があります。

3-2. 外国人労働者による犯罪を予防する方法

外国人労働者による犯罪を防ぐためには、「警察による防犯対策」と「市民レベルでの相互理解」の2つの柱が必要です。

来日外国人犯罪の増加に伴い、警察は関係機関とのグローバルな協力体制を構築し、水際対策や犯罪の検挙、被疑者の追跡捜査などを強化しています。

外国人労働者向けには、防犯教室や交通安全指導教室などを実施し、防犯の啓発活動に力を入れています。

外国人労働者の中には、日本社会に馴染めず同胞からの誘いで犯罪に巻き込まれるケースが少なくありません。

地域コミュニティでは言葉や生活習慣の違いから日本人とのコミュニケーションが取れず、騒音やゴミ出しなどのトラブルにつながることも多々あります。

これらのトラブルを防ぐためには、外国人労働者と日本人の相互理解が必須です。地域によっては日本人向けに勉強会を開いたり、外国人と日本人が一緒に防犯パトロールを行ったりするところもあります。

このように市民レベルで積極的なコミュニケーションを取ることが、外国人労働者の孤立を防ぎ犯罪の抑止力となるでしょう。

3-3. JICAが発足させたJP-MIRAI

外国人労働者を巡る問題を解決するため、2020年には国際協力機構(JICA)主導の下「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」が発足しました。

JP-MIRAIには民間企業や地方自治体、弁護士、労働組合などさまざまなステークホルダーが会員となっており、弊社も加盟しています。

JP-MIRAIの目標は、外国人労働者を適正に受け入れ、労働・生活環境を改善して「世界の労働者から選ばれる日本」を実現することです。

そのために会員が連携・協力し、「外国人労働者へのヒアリング」「外国人労働者への情報提供」「会員同士の取り組み支援」「国内外への発信」などを行っています。

豊かで持続可能な社会を創造するためにも、JP-MIRAIの活動が浸透し、多くの受け入れ企業の人権意識がアップデートされることが望まれます。

3-4. ライトワークスによる「外国人材支援プロジェクト」

ライトワークスでは、外国人労働者にまつわる違反事例を減らすために、2021年3月に「外国人材支援プロジェクト」を発足しました。

プロジェクトの第一弾として、外国人労働者・受け入れ企業に向けたeラーニング教材を提供し、正しい知識の浸透を目指しています。なぜかというと外国人労働者・受け入れ企業ともに、知っておくべき情報を理解しておらず、気づかぬうちに違反しているケースが少なくないからです。

弊社の企業向けeラーニングでは、知っておくべき法務・労務の最新情報や採用手続き、キャリア構築など具体的な内容も学ぶことができます。

参考)ライトワークス「eラーニング教材 外国人材採用企業向けシリーズ 入門編・基礎編」
https://content.lightworks.co.jp/contents/material/posts/introduction/
https://content.lightworks.co.jp/contents/material/posts/basic/

外国人労働者向けのeラーニングでは、日本の法令や制度、文化などを現地語で無償で学習可能です。日本での働き方からゴミの出し方まで幅広く学べるため、日本社会に溶け込む後押しになるでしょう。

3-5. 外国人労働者雇用に関する注意点4つ

外国人労働者にまつわる犯罪を防ぐためには、受け入れ企業側が人権意識を高めることが必須です。

ここでは、「雇用の目的を明確にする」「在留資格を確認してから雇用する」「適正な労働条件を整える」「文化や宗教の違いを理解する」という4つの注意点について解説します。

3-5-1. 雇用の目的を明確にする

雇用の目的が不明確だと優秀な外国人労働者を集められない恐れがあるので、目的を明確にしておきましょう。「人件費を抑えるため」といった目先の利益を優先した目的は、法令違反につながりやすいため避けた方が無難です。

外国人労働者は言語や文化が異なるため、日本人従業員にはない発想ができる可能性があります。

外国人労働者のアイデアによって、従来の仕事のやり方を改善したり、海外進出に挑戦したりするきっかけになることもあるかもしれません。社内コミュニケーションが活発化し、生産性の向上や離職率の低下につながることも考えられます。

このように外国人労働者は自社に変革をもたらす可能性に満ちた人材のため、適切な雇用目的を設定し、社内で共通しておくことが大切です。

3-5-2. 在留資格を確認してから雇用する

外国人労働者を雇用する際は、在留カードなどで在留資格を確認しておきましょう。在留資格は種類によって、就労の可否・就ける職種・滞在期間などが異なります。

在留資格を確認せず不法残留になってしまえば、外国人労働者本人が退去強制の対象になるだけでなく、受け入れ企業も懲役や罰金などを科される可能性があります。

これから在留資格を得る外国人労働者の場合は、きちんと取得できそうかどうか経歴をチェックすることが大切です。在留資格を取得するためには、特定の職種に関わる職歴や学歴など一定の要件を満たす必要があります。

雇用後に在留資格を取得できなければこれまでの採用活動が無駄になってしまうので、人材紹介会社を利用する場合でも経歴を確認することをおすすめします。

3-5-3. 適正な労働条件を整える

優秀な外国人労働者を確保するためには、法令を遵守した適正な労働条件を整えることが大切です。賃金や業務内容など労働条件について話し合い、お互い納得した上で契約を結びましょう。

雇用の際は労働基準法に基づいた雇用契約書を作成し、外国人労働者に交付する必要があります。雇用契約書はトラブルが起きたときの証明書にもなるので、日本語だけでなく外国人労働者の現地語でも作成すると良いでしょう。

優秀な人材にアピールするためには、社内の評価制度を見直すのも一つの手です。

外国人労働者の中には、日本人より給与が低いことや、能力・成果は同等なのに年功序列によって給与が上がらないことに不満を覚える人が少なくありません。

海外では能力や成果によって給与が変わることが一般的なので、この機会に社内の評価制度を見直すことをおすすめします。

3-5-4. 文化や宗教の違いを理解する

外国人労働者を雇用する際は、それぞれの文化や宗教の違いを理解し、社内で共有することが大切です。宗教によってはお祈りの習慣があるため、祈祷の時間を確保することが求められます。

外国人労働者にとっても日本の文化や風習は異質なので、コミュニケーションを通してお互いの違いを理解していくと良いでしょう。

また、外国人労働者によっては時間厳守の意識が低く、スケジュール通りに行動しない場合があります。国民性の違いが原因の可能性があるので、日本で働く際のルールについて説明しておくことが大切です。

お互いの違いを理解していないとトラブルが起きやすいので、外国人労働者と日本人従業員双方に教育を行うことが求められます。

4. まとめ

「外国人労働者が犯罪に走らないか心配」と、雇用に踏み切れない企業の方は多いのではないでしょうか。近年、外国人労働者による犯罪が報道されることが多く、自社で同じトラブルが起きないか不安になるかと思います。

しかし、統計データを見ると外国人労働者の数が増えても検挙人員は必ずしも増加しないため、「外国人労働者=犯罪」というイメージは事実に反しているといえるでしょう。

検挙状況の話をすると、在留資格で最も多いのが技能実習による犯罪です。技能実習生の数は年々増加傾向にあり、中でも突出して多いのがベトナム人です。

2020年の調査では技能実習生全体の50%をベトナム人が占めており、2位の中国とは30%以上の差があります。中国が豊かになった今、中国人技能実習生の数は減少傾向にあり、その欠員を埋めるためにベトナム人技能実習生が増加しているのです。

国籍別検挙状況では最も多いのがベトナム人で、2位の中国と合わせて全体の50%以上を占めます。ベトナム人による犯罪で特に多いのが万引きなどの窃盗と、不法残留などの入管法違反です。

「国籍別ではベトナム、在留資格別では技能実習の検挙人員が多い」「ベトナム人不法残留者の5割以上が技能実習で来日している」ことから、ベトナム人による犯罪の背景には技能実習制度が大きく関与していると指摘されています。

ベトナム人技能実習生が犯罪に走る主な原因としては、「技能実習生が抱える100万円以上の借金」「仲介業者による搾取」「コロナ禍による影響」という3つの事情が挙げられます。

技能実習制度では「送り出し機関→監理団体→受け入れ企業」のように最低でも2つの人材事業者が介在するのが一般的です。

送り出し機関は日本への渡航費などの名目で100万円以上の金額を技能実習生に請求することも多く、ほとんどの技能実習生は多額の借金を負って来日しています。

借金するのは「日本で働けば借金を返せる」という甘い言葉を信じているからですが、契約通りの賃金を受け入れ企業が支払ってくれるとは限りません。

受け入れ企業は手数料や管理費を仲介業者に支払うため、その分技能実習生に支払う賃金を減らしたり、長時間労働を強いたりする場合があります。過酷な労働環境でも技能実習生には転職の自由がないため、逃げ出すために失踪し、不法残留で働くケースが少なくありません。

コロナ禍の影響で収入が激減し、借金返済のために犯罪に走るケースも報告されています。

このように外国人労働者の犯罪の背景には、彼ら個人の資質というよりも日本側の制度や企業側の対応に問題がある可能性が高いです。

日本で働く外国人には日本の労働関連法が適用されますし、当然のことながら日本人従業員と同様に尊重しなければいけない存在です。

違反行為が原因で失踪や犯罪などにつながれば、日本人従業員の離職だけでなく企業イメージの失墜は免れません。これからの社会を生き抜くためにも、企業側には人権意識を持って外国人労働者を雇用する責任があります。

外国人労働者による犯罪を防ぐためには、警察による取り締まりの強化はもちろん、市民レベルの相互理解も必須です。

日本人とのコミュニケーション不足からゴミ出しや騒音トラブルにつながることもあるので、地域コミュニティによっては日本人向けの勉強会を開くところもあります。

企業も啓発活動に動き出しており、2020年には国際協力機構(JICA)主導の下「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」が発足しました。

弊社もJP-MIRAIに加盟しており、ライトワークス独自の取り組みとして「外国人材支援プロジェクト」を開始しました。「外国人材支援プロジェクト」では外国人労働者・受け入れ企業それぞれに向けてeラーニング教材を提供し、正しい知識の浸透を目指しています。

外国人労働者の受け入れを検討する際には、受け入れの目的を明確にし、社内共有することが大切です。外国人は日本人にはないアイデア力があり、海外進出の即戦力となる可能性に溢れた人材です。

「安い労働力確保のため」のような目先の利益に捉われず、自社に前向きな変化を起こす人材として受け入れの目的を定めてください。

採用活動では、在留カードなどで在留資格を確認してから雇用することが重要です。採用予定の職種と在留資格があっていなければ、予定通りに働いてもらうことはできません。これから在留資格を取得する外国人の場合は、職種や経歴をチェックして取得できそうかどうか確認すると良いでしょう。

トラブルを防ぐためには、法令を遵守した適正な労働環境を整えることも求められます。賃金や業務内容について話し合い、お互い納得したうえで契約を結びましょう。

雇用の際は労働基準法に基づいた雇用契約書を作成し、外国人労働者に交付する必要があります。もしものときの証明書にもなるので、日本語だけでなく外国人労働者の現地語でも作成しておくのがおすすめです。

外国人労働者によっては独自の文化や宗教を持っているので、お互いの違いを理解することも大切です。外国人労働者にとっても日本の文化は異質なので、積極的なコミュニケーションで違いを教え合うと良いでしょう。

国民性によっては仕事の感覚が日本人と異なる場合もあるので、時間厳守など基本的なルールを説明しておくことも重要です。

外国人雇用のガイドブック_まなびJAPAN

参考)
VIETJO「日本のベトナム人労働者数45.3万人、国籍別1位」,2022年2月2日(閲覧日:2022年4月14日)
佐野誠「日本在住の外国人が増えてるが、本当に外国人犯罪は増加しているのか?」,『ファイナンシャルフィールド』,2019年8月30日,https://financial-field.com/living/entry-20400#:~:text=%E9%81%8E%E5%8E%BB5%E5%B9%B4%E7%A8%8B%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%AF,%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84%E3%8(閲覧日:2022年4月14日)
Goandup Picks「ベトナム人実習生が増加する背景や日本が人気な理由を解説」,2022年3月15日,https://picks.goandup.jp/background-of-increasing-vietnamese-trainees(閲覧日:2022年4月14日)
外国人採用サポネット「日本で働くベトナム人急増の背景と理由とは?」,2022年1月5日,https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/culture/791#chapter-2(閲覧日:2022年4月14日)
読売新聞オンライン「外国人摘発最多はベトナム人、県警「支援組織の摘発必要」…支援団体「犯罪目的では来日しない」」,2022年1月28日,https://www.yomiuri.co.jp/national/20220127-OYT1T50089/(閲覧日:2022年4月14日)
望月優大「法令違反が7割超、ブラック企業を次々に生み出す技能実習制度の構造」,『現代ビジネス』,2019年6月28日,https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65550?page=4(閲覧日:2022年4月14日)
出井康博「一番の被害者は真っ当に過ごすベトナム人」,『WEDGE Infinity』,2020年11月8日,https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21276(閲覧日:2022年4月14日)
出井康博「ベトナム人実習生の背後にある深い闇」,『WEDGE Infinity』,2021年2月17日,https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22159(閲覧日:2022年4月14日)
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The Asahi Shimbun GLOBE+「技能実習制度の廃止を訴える指宿昭一氏「ゼノフォビア(外国人嫌悪)の根源は政府」」,2021年10月11日,https://globe.asahi.com/article/14458240(閲覧日:2022年4月14日)
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西日本新聞「外国人増で治安に不安? 増える苦情、犯罪率は比例せず 体感と実態にずれ」, 2018年11月29日,https://www.nishinippon.co.jp/item/n/469181/(閲覧日:2022年4月14日)
責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム「概要」,https://jp-mirai.org/jp/about/(閲覧日:2022年4月14日)
外国人HR Lab.「外国人労働者の問題と解決策|社会的問題も徹底解説」,2020年3月24日,https://gaikokujinhr.jp/442(閲覧日:2022年4月14日)
en人事のミカタ「人事業務担当者の「困った……」をスッキリ解決!人事労務Q&A」,https://partners.en-japan.com/qanda/desc_303(閲覧日:2022年4月14日)
みんなの採用部「【2022年版】外国人を雇用するには?|メリット・注意点・手続き・採用手法を解説」, 2022年4月29日,https://www.neo-career.co.jp/humanresource/knowhow/b-contents-kikikan-190925/(閲覧日:2022年4月14日)
吉原啓太「外国人労働者の受け入れ方法~採用から定着まで7ステップと注意点~」,『Global HR Magazine』,2021年8月3日,https://global-hr.lift-group.co.jp/75(閲覧日:2022年4月14日)
Jump Japan「外国人労働者|文化と習慣の違い、トラブル解決法は?」, 2021年7月5日,https://media.jumpjapan.net/archives/3024(閲覧日:2022年4月14日)

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